お菓子の心〜7〜


お菓子を作るときや構成を考えるとき、あるいは若い技術者に話すとき、よく音楽を題材にします。音楽はリズム、ダイナミックス、旋律、ハーモニー、サウンドで構成されます。これらを十分把握した上で、どのように歌い、表現するかが重要です。そのなかでも歌えることが真のアーティストとしての評価を左右します。
知識やテクニックは、習得するまで練習し、努力しなくてはなりません。これはすべての分野に共通することです。ただ、いかに歌い、表すか、と考えるとき、何について、どう感じ、どのように伝えたい以下が大切になります。
この音色は常に意識していなくては身に付きません。自分でしっかり判断できるようになるまで、さまざまな音色に心惑わされながら迷い続ける時期も決して無駄ではなく、全てが自分の音色を確立するために役立つ素材となります。
お菓子も同様で、味は音色であり、表現は技法の取り入れ方と言えます。技は積み重ね、丹念に取り組んでのみ、習得できるものです。
でも、どんなに高度な技巧を盛り込んだ自信作であっても、心を動かす菓子を作るのは容易なことではありません。大切なのは、得意な手法を持って表現するのではなく、極端に言うと、一番不安な要因となる弱点をどう表していくかが重要なポイントです。
例えば、熟練者には徹底して初歩的な表現法を、逆に二、三年の経験者には難易度の高い制作法を求めます。このとき、両者に共通するのは極度の緊張感を持って臨むことです。その真剣さを消費者は感じ取っているのです。
私の厨房では、十二人の見習いが学びました。仲間同士の争いはただの一度もありません。味を作る人に、もし闘う相手がいるなら、自分しかいないのです。