お菓子の心〜17〜


父や信頼する人たちに、アドバイスされたことがあります。
自分が望み描くすべてのことに、絶対の自信が生まれ、百パーセント成功するであろうーそう思い始めると失敗を予期できない思考となりがちで、それがうまくいかない要因となるようです。
事を成す時は、最悪の状況に立った姿を思い、それを受け入れた上で実行に移すのが最良だというのです。全くその通りです。過剰な地震には、何かを受け入れられなくなる仕組みがありそうです。
今の私には、経営者として地をはうような姿勢ばかりで、見通しなど全くないのですが、常に最悪の時には、どのように対処すべきかを心掛けているつもりです。
若かったころ、原宿の店を立ち上げる企画に参入した本当の理由は、プロジェクトの核となって、駆けずり回っていた典型的エリートサラリーマンの情熱に打たれたからなのです。
その人は私に「魂の通ったお店にしよう。今まで日本になかったお菓子の殿堂を・・・」と、目を輝かせて熱い胸の内を語り掛けました。私がそれまで出会った多くの優秀な技能者とは比べようもない、命がけの気迫が漂っていました。
オープンした後、その人は表参道の向かい側に立ち、何時間もお店を眺めては「どうしてうまくいかないんだろう、なんでなんだ亀ちゃん」と、毎日のように声を掛けてきました。
今思うと、まさに私がお店をやるとき忠告を受けた言葉通りの結果だったのです。退社してからも妻とともに家に招かれると、いつもお菓子の話ばかり。ヨーロッパに旅立つ時には、自分の足で一軒一見訪ねたカフェやレストラン、菓子店の調査表とマップを手渡してくれました。その正確さと観察力は、市販のマップなど問題になりません。
アンナマリーの開店時には、企業名ではなく個人としてお花が届けられ”いよいよ本当の意味で魂の通うお店ができるナ”と書き添えてありました。そしてその翌年、他界されました。
素晴らしい生き方を見せてくれました。その志を受け継ぎ、かなうものならこの地で、大都会で果たし得なかった夢を・・・、そんな思いでいっぱいです。