お菓子の心〜16〜


どんな職種においても、後継者がいないとか育たないという話をよく耳にします。菓子業界でも同様です。現にそれが要因で廃業したり、意欲喪失に陥る経営者が多く、とても残念なことです。大会社であれば人材はあふれんばかり、しかし個人経営となれば容易なことではありません。
私自身、親から子へと受け継ぐことの大切さは十分理解しているものの、それは技ではないと思っています。自分にしかできない仕事を自ら選ぶ、あるいは生活の糧として打ち込める仕事と出会えるのが、理想的だと思います。
幸いにして私は菓子職人として生きていこうという志を両親から授かり、今があります。その喜びは例えようがありません。
よく、子は親の背を見て育つといわれます。資産を残し、ゆとりある生活、そして約束された人生を歩めるようにしてあげるなら、親としては大満足でしょう。与える喜びと子を思う気持ちを形にできるのですから。
でも与えられる側は、自分に本当に必要なものは何かを知らずに、敷かれた道を歩まなくてはならないのです。それほどつらいこともないはずです。
伝えること、そして受け継いでほしいことは、どのように仕事に向かい、どのように人と接し、何を気づくためにどんな努力をし続けてきたかという、生きる姿勢そのもののような気がします。
私は決して完全主義者ではありませんし、経営者としても成功者とは言えません。ただ専門職として恥じない仕事をと、一人でも多くの人に役立つ菓子作りをしている、と胸を張って、子に接することができます。これは当然技術的なことではなく、気質に通じる内面的なとらえ方を大切にすることに尽きます。
物づくりに従事するほとんどの人が、積み重ねる大切さ、重要性を語ります。さらにその築き上げたものを自ら崩し、ゼロの地点に立ち戻る勇気を持っているものです。
そんな生き方は、一代だからこそ表現できるのだと思います。今、子に伝えるとすれば、そんな親の生き方に接する中から、幸福をつかむカギを見出してもらいたいということです。