お菓子の心〜14〜


私の得意とする作品は、チョコレートです。コーヒーや紅茶にこだわりを持つ人がいるように、私の場合はチョコレートです。収穫される原産地、加工する時の成分の割合など、メーカーさんのセールスや研究室の方までも頭を抱えるほど、それはそれはうるさいほうです。
ヨーロッパで用いられるチョコレートも、今はほとんど手に入る時代です。ベルギー、フランス、スイスの有名店のチョコさえも容易に入手できるのですから。そういうチョコを超える作品を作るには、チョコレートの原料、カカオの厳選しかありません。希少価値の高い品を選び、その上で味を作る以外ないのです。
私の厨房には、幅九十センチ、長さ一・六メートルの大理石があります。この上でチョコレートの温度調整を行うのですが、これが実に楽しいのです。何十時間でも通して作業できるほどです。
それに、大きな声では言えないのですが、チョコレートと会話できるという特技があるからです。周りの人に聞かれる心配もなく、心ゆくまで話せるのですから、これほど楽しいことはないのです。
チョコレートをかくはんするボウルに、私の顔が映り、それが揺れ始め波紋で崩れだします。そしてまた、はっきりと鏡のように写し返すのです。チョコレートは、まるで心を映す鏡です。家族の次に愛情を注ぐ大切な友です。
一粒ひと粒心を込めて作ります。たとえ何千個の中の一粒であっても魂の通う作品です。きっと作り手の思いを真っすぐに伝えてくれることでしょう。人の口に入り、その人の全身にゆっくり溶け始め、幸せな思いが広がってほしいものです。
ゆったりとくつろげるショップでデザートを提供し、最高のひとときを演出する空間を作り出すのが願いです。実現するにはまだ時間が少しかかりそうです。厳しい経済環境が続く中、辛抱を合言葉にこれまで十三年、あと何年かな?