お菓子の心〜13〜


菓子作りの喜びは、自分のイメージ通りに形や色、味を作り上げ、同時に食べてくれた人の喜びが伝わる時です。手紙やはがき、写真までもお送りいただくことがあります。喜んでもらえた様子を思い浮かべると、大満足です。当然、良いことばかりではなく、身を引き締めねばと思うこともしばしばです。うれしかったことを紹介します。
卒業シーズンのころ、ある小学校の先生から、三年間、児童とともに学んだ思い出を、みんなでかみしめたいという依頼がありました。大きなケーキの上には、古い通貨や分子記号を模型的デザインで、という要望がありました。児童たちに特別な思いを抱えている先生の様子を拝見し、喜んで作りました。
数日が過ぎ、手紙を頂きました。お別れパーティが大成功であったこと、卒業式は涙々の感動的な式典であったことなどが書いてありました。
この先生は、学級崩壊寸前だったクラスを四年生から担任として受け持ちました。毎日のように悩み、今自分にできることで一番良いと信じられることを実行する努力を積んだようです。子どもたちが学校で少しでも笑顔でいられるようにしたいと心に決めた結果、子どもらと素晴らしい関係が築けたことを喜んでおりました。
さらに手紙には、ー店を経営する人は、店に来ないお客さまのせいには決してせず、来てもらえるような店づくりや、もう一度食べたいと思えるお菓子を作ることによって、お客様は集まります。私たち教師はとかく子どもや親のせいにしたり、社会が悪いとか、ついつい口に出しがちです。もっと子どもたちが喜べる授業が必要で、そうありたいーと締めくくってありました。熱い先生であり、立派な大人、良き父であることに感銘を受けました。
時として組織では、あまりに熱心さが突出すると中傷されがちです。でも人を育てる人、物づくりをする人に大切なのは、本物を見極める目であり、志です。