お菓子の心〜12〜


チェコナショナル交響楽団とフジ子ヘミングのコンサートは、素晴らしかったです。音楽的にとか、曲の解釈など、そんな次元ではない、今を伝えてくれる強烈なパワーです。心がいやされ、何かが揺り起こされ、生きている大切さを知るのです。
会場にいた観客の方々は、きっと音楽評論などをする気もなく、ただただ聞き入り、時を共有できた喜びで満たされたのではないでしょうか。
ステージではマイクなしで、観客には十分に聞こえるはずもないのに、曲名や仙台でのコンサートのことなどを語りかけ、弾き始めました。その姿には圧倒されました。
フジ子さんとオーケストラ団員のためにチョコレートを作り、持参して、楽屋を訪ねました。「一年ぶりですネ」と声をかけると「そうね、一年頑張ったわ」と返事がきました。この言葉フジ子さんらしいとお思いました。
本当に自分にとっての一年を、身を削って過ごされた思いがひしひしと伝わります。そしてともにすべての人が一年頑張って今日があることを認識させられました。
娘が「カンパネラが大好きです」と言うと、自分の手を見つめて「チャイコ(フスキー)を弾いてからのカンパネラはつらいのヨネ。仙台では失敗しちゃった」と淡々と言います。「仙台のコンサートに行った人はラッキーでしたネ」と言うと、「フフッ」と笑みを浮かべました。
一流の人だからこそ、普通の人にも喜びを伝えられるのです。一流の人が一流を相手に伝えることほど簡単なものはないのです。私も足元にも及びませんが、美食家や評論家に賛美されるよりも、子供達においしいと言われるお菓子を一日も長く作りたいとお思います。
音楽だけに限らず、絵画や彫刻、書など、芸術は生きる喜びや苦悩、人の善悪が凝縮されています。だからこそ、暮らし方や価値観の違い、そして幸福な人、不幸に思う人にも、平等に何かを伝えてくれるのです。限られる範囲で、一つでも多くの芸術に触れていたいと思います。
そこで得る何かを、毎日の生活の中に生かし、人生を楽しめるアーティストになりたいものです。フジ子さんを賛美できる心があれば、もっと本物が増えることでしょう。