お菓子の心〜10〜


十二月に入ると、街のあちこちでクリスマスソングが流れ出し、私たち洋菓子職人は、耳をふさいでしまいたくなるほどです。とは言っても、この一大イベントを抜きにしては、年は越せません。
本来のクリスマスケーキには、ロマンがぎっしりと詰め込まれています。一つ一つかみしめながら作れたら、どんなに幸せでしょう。それが終われるように作り続ける自分は、なんと不幸ものだろうと思ったことがありました。
しかし現実は、クリスマスのたくさんの家庭の食卓にキャンドルがともり、楽しい時を過ごしているのです。その演出の一つにケーキがあるという事実は、作り手の最大の喜びです。
この時期になると、考えられない出来事が不思議と起こります。術後で体力もまだないときの大忙しのクリスマスもその一つです。突然体が動かなくなり、即病院へ。極度の脱水状態で、痛み止めと点滴をしなくてはならなくなりました。
そのころは、完全予約制でしたので、少しでも良い状態でお出しできるように、ケーキ作りはぎりぎりのスタートでした。陣頭指揮を執りながら仕上げていく私が、動けなくなったのです。朝早くから、また遠くから来られる人たちに申し訳が立たないと、どうにもならない苦しさで涙が止まりませんでした。
夜がうっすらと明けかけたころ、妻が病室に来ました。「なんとか間に合うから大丈夫だヨ、お父さん」と疲れた様子も見せずに、明るく語りかけるのです。何が何だかわからず尋ねると、私が病院に行ったあと、以前の教え子が様子を見に立ち寄ってくれたらしく、そのまま朝まで頑張ってくれたというのです。それに、福島のいわき市にいる初代のチーフも、仕事を終えて、午前中には盛岡に入るというのです。
「クリスマスイブに、雪が降ると奇跡が起きるって本当だネ」、そうささやく妻に、大きくうなづきました。
忘れてはならない感謝のクリスマスです。