両親亡くした男児に誕生ケーキ


「なんとか、誕生ケーキを作ってくれませんか」。そう懇願され、亀山弘能さん(58)は戸惑った。昨年3月12日、東日本大震災の発生翌日のことだ。
岩手県釜石市で洋菓子店を営むが、港近くの支店は津波で壊滅。本店も物品が散乱し、停電で生クリームすら作れない。事前に受けたケーキの予約をすべて断ろうとした時、70歳ぐらいの男性が来店した。ー自分には3月11日生まれの幼い孫がいる。その母親が誕生ケーキを予約していたが、両親とも津波に流された。1日遅れだが、代わって誕生日を祝ってやりたいー。
亀山さんはわずかに残るケーキ台に常温保存できるバタークリームを絞った。描いたのは、アンパンマンの顔。数時間後、男性に伴われ3歳ぐらいの男の子がやって来た。大喜びだった。
亀山さん自身も多くの友人や顧客を失った。震災後、店には葬儀や法事の引き出物に使われる歌詞の注文が急増。くたくたになる時もあるが、断ったことはない。「生き残った者の使命ですから」
生かされた。その想いこそ、復興の力であり続けるのだろう。