お菓子の心〜4〜


独立を心に決め、組織から離れた私は、なんとも言えない解放感と希望に満ちていました。けれど、振り返れば、それまでのチャンスは全て与えられたものばかり。自力で手にした実感がないだけに、夢を追い、期待ばかりが募る日々に不安を覚えました。
適正な技術力の評価を客観的に受けなければ、独立などできないと、菓子作りの講師として、スタートしました。セミナーには、あえてトップレベルのカリキュラムを取り入れました。受講する技能者の中には私以上の経験とテクニックを持った人も多く、実技指導としてリードするには、百パーセントオリジナル作品でなくてはなりません。それまで以上の研究や観察で、五年間全力を尽くしました。五百品種を超える商品アイテムを確立しましたが、最後には限界を強く感じ、行き詰まってしまいました。
この壁を乗り越えなければ、いずれ同じ壁にぶち当たります。挫折感に等しい苦悩でしたが、ここまでたどり着いた自分を信じました。ただ作るという作業はやめました。菓子への想いを定めることに真剣に取り組むことで、何かに気づける自分を信じました。
そんなある日、菓子作りの既成概念をひっくり返すアプローチの仕方がひらめいたのです。柔らかいものを硬く、あるいはその逆にと。例えば、パイの生地やムースをスポンジに変えたり、水分と固形の配分を逆転してみることでした。
資料やレシピに頼らない、盲点ともいえるアプローチでした。行き詰まったからこそ得られたヒントでした。
この驚きと感激を、それまでの苦悩を知っていた妻にまず報告し、喜びを共有しました。念じて行えば必ずかなうということを確信し、翌年の独立を決意した日でもありました。